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ITモダナイゼーション

18カ月にわたる大規模なSAP変革から得た7つの教訓

お知らせ 2024/07/23 読み取り時間:
マイケル・ブラッドショージーノ・ルッジェーロ

応援するスポーツチームが勝利した後の記者会見で、コーチが「プロセス」を強調するのを耳にすることがよくあるでしょう。

表現は異なるかもしれませんが、メッセージは本質的に同じです。明確に定義されたゴールに対する計画立案と実行に専念すると、勝敗のような結果は自然についてくるものです。

この格言は、キンドリルが企業全体で SAP への移行を開始した際に真実であることが証明されました。私たちの経験は固有のものではありますが、同様のモダナイゼーションを計画しているどの組織にも適用できる重要な教訓を見出すことができます。

 

シンプルさを目指す変革の取り組み

私たちの変革への取り組みは、キンドリルがIBMから分離独立して、世界最大のITインフラストラクチャー・サービス・プロバイダーとなった、2021年11月に始まりました。分離の一環として、1,800を超える既存のビジネスプラットフォームとアプリケーションから2年以内に撤退するために、移行サービス契約(TSA)を締結しました。財務、調達、Q2C(見積・請求管理)アプリケーションが、そのIT環境の約20%を占めていました。

CIOオフィスが策定した詳細な戦略に従い、キンドリルはSAPやサービス統合パートナー2社と協力して、375の財務、調達、Q2Cのシステム、プロセス、レポート機能を、S/4 HANAを基盤として15のSAPソリューションで構成された単一のSAPプラットフォームに統合しました。このプロジェクトは18カ月にわたり、世界中で71,000人以上のS/4ユーザーの設定をする必要がありましたが、通常業務に影響を与えることなくリアルタイムで、業務システムを全面的に更新できました。

複数のレガシーシステムとバラバラの技術を統合SAPプラットフォームに置き換えることによって、継続的でタイムリーかつ正確な情報の流れを生み出し、従業員は業務やリアルタイムの分析にそのデータを使用できるようになります。キンドリルのグローバルIT変革(英語)の主要な要素の1つとして、SAPのモダナイゼーションは、販売費および一般管理費(SG&A)を長期的に2億~3億ドル削減する上で、すでに重要な役割を果たしています。

375

変革前の財務、調達、Q2Cのアプリケーションの総数

15

変革後に適用した財務、調達、Q2Cのシステム用のSAPソリューション

1

S/4HANAを基盤としたSAPプラットフォーム
学んだ教訓をどう生かすか

SAPを初めて実装する場合にも、ECCをS/4 HANAに移行する場合にも役立つ、大規模なSAP変革を管理するために重要な7つのステップをご紹介します。

 

1.   現在の状態を評価する

アプリケーションやシステムの置き換えを開始する前に、既存のテクノロジースタックとアーキテクチャーを分析して性能を評価し、現在のシステムの強みと弱みを明らかにしてください。この評価は、スコープを定義し、変革の複雑さを理解するのに役立ちます。


キンドリルの経験

変革前の評価中に、エンタープライズ・アプリケーション・チームは、旧来の業務システムが単一の標準化されたシステムではなく、会計や財務、調達からQ2Cまでの7つの主要プロセスをサポートする、何百もの断片化されたシステムで構成されていることに気づきました。変革チームは、カスタマイズや補助アプリケーションの接続コードが多すぎて、計画されている新環境に複製できないと判断しました。

技術的な要件を広範囲に検討するのではなく、プロジェクトの範囲に焦点を当てて、過去から続く複雑さに対処しました。このアプローチによって、私たちは迅速に意思決定を行い、変革の初期段階を分析しすぎることから生じる遅延を回避できました。
 

 

2.   ビジネスドライバーを特定する

技術的な作業がSAP導入の主な目的となる場合もありますが、トランスフォーメーション戦略を計画する際には、主要なビジネスドライバーと、その望ましい成果を明らかにすることが不可欠です。

 

キンドリルの経験

TSAの期限を守ることは、私たちのSAP変革で最も差し迫ったビジネス推進要因でした。しかし、キンドリルの大規模なIT変革の重要な要素として、SAPのモダナイゼーションは、IT環境の合理化と目的に合った技術資産を構築するために重要でした。

私たちの変革は、スピード、機能性、そして運用の安定性を維持するという原則に基づいて行われました。そこで私たちは、データの統合と集中化を優先し、業務を中断することなくスムーズな移行を実現する、標準的で即時使用可能な統合を選択しました。

新システムでデータの一元化と標準化を行うことによって、CIOオフィスは統合に参加し、プロジェクトに沿ったビジネス目標の設定と推進を支援できるようになりました。どのようなカスタマイズでも、ベストプラクティスとして事前に設定されたテンプレートから始め、ガバナンスの下で管理された方法で追加しました。

 

Fast take

SAPトランスフォーメーションの技術的要素をビジネス上のゴールに合わせることで、組織全体のリーダーからの賛同を得やすくなります。収益性向上に焦点を当てることで、従業員のモチベーションを高め、リーダーをプロセス全体を通じて関与させ続けることが可能になります。
3. トランスフォーメーション戦略を作成する

企業の変革戦略は、SAPモダナイゼーションのためのロードマップとして機能します。組織を軌道に乗せるために十分に構造化されている一方で、予期しない障害や機会に対応できる柔軟性も備えている必要があります。

 

キンドリルの経験

キンドリルでは、レガシーアプリケーションから継承した何千行ものコードを複製するよりも、ゼロから始める方が長期的な運用戦略にとって有効であると判断しました。そこで、私たちは選択したSAP要素のグリーンフィールド実装1を選びました。私たちは実装にSAPのベストプラクティスを使用し、オフィスがある66カ国に、次の順序で段階的にアプリケーションを展開しました。

  • セントラルファイナンスS/4HANAを活用したレポート機能
  • 財務全般とQ2C業務をS/4HANAで実施
  • AribaとFieldglassを使用したS2P(全体を網羅する)調達

財務の統合に続いて、2つの主要な展開フェーズを実施しました。まず、SAP ECC をすでに利用している24か国で展開を開始し、その後、SAPを使用していない42か国を対象とする第2フェーズに移行しました。この戦略によって、2番目の導入グループでSAPを使用しない42カ国のデータ変換をする時間を確保することができました。また、各導入タイミングの前後にマイナーリリースをスケジュールして、機能を段階的に追加していきました。

 

4.  イノベーションを可能にする

厳しい期限に直面している場合でも、変革中はプロセスと問題解決への新しいアプローチを常に模索することが重要です。

 

キンドリルの経験

SAPのモダナイゼーション中、エンタープライズ・アプリケーション・チームは、従来のシステムを稼働させながら、新しいSAPシステムにデータを供給するプロセスを設計しました。この並列運用アプローチによって、中断が最小限に抑えられ、それぞれの部門が通常通りに業務を行うことができました。

運用と変革を同時に行う計画を遂行するために、チームはマスターデータにタグを付け、トランザクションデータから参照できるように保持するアルゴリズムとソフトウェアを開発しました。システムの信頼性にとって重要な要素であるマスターデータは、SAP Master Data Governance(MDG)で管理管理され、正確かつ安定した状態が維持されました。

チームがマスターデータの安定性を確認した後、トランザクションデータを抽出してクレンジングし、新しいシステムにロードしました。この移行アプローチは、移行中に従業員がレガシーシステムで作業を継続し、新システム内のデータを確認できるようにすることで、導入に対する抵抗を軽減しました。

Fast take

ユーザーがターゲットシステムで作業を開始するのは早ければ早いほど良いです。私たちのチームは、デジタルアダプションプラットフォームであるSAP Enable Nowを導入しました。これは、アプリケーション内のヘルプやeラーニングコンテンツを提供し、実践的な使用を促進し、導入を加速させるためのものです。
5.   トランスフォーメーションガバナンスを優先する

ガバナンスは、経営陣の賛同から始まり、組織のすべてのレベルを強化しました。ガバナンスに注意を払い、目標とガイドラインを明確に定義しなければ、モダナイゼーションで必然的な課題に取り組む際に、スコープクリープ3が発生する可能性があります。
 

キンドリルの経験

SAP変革の規模、範囲、予算を目標通りに維持するために、私たちは次のことを行いました。

  • 最高経営幹部によるガバナンス委員会を結成して毎週会合を開き、マイルストーンを見直し、予期しない問題について話し合い、発生した問題に対処しました。この会議によって、理事会が問題解決を支援し、必要に応じて追加リソースを割り当てることができました。
  • 技術的実装と国別展開からなる実装フレームワークを確立しました。最初のフェーズでは、各国の展開に5人の専門家を4カ月間任命しました。最初の実装フェーズが始まった後、期間を短くするために人員増強が必要だとわかったため、チームを20名に増やし、割当期間を1カ月に短縮しました。
  • システムの可用性を最大化するために、事業継続計画と災害復旧計画を策定しました。計画停止や予期しない停止に備えて、中断を最小限に抑えるためにアクティブなシステムと継続的に同期するフェイルオーバーシステムを構築しました。大規模なシステム障害が発生した際のデータ損失やアプリケーションのダウンタイムを抑えるために、本番サイトのミラーも設計しました。

 

6.   予算の調整を見込む

全社的なIT変革の予算編成は、会計と人材管理のバランスを取る作業です。プロジェクトのある分野に資金や人員を投入しすぎたり、少なすぎたりすると、他の分野に影響が及ぶでしょう。
 

キンドリルの経験

私たちのSAP変革では、エンタープライズ・アプリケーション・チームは過去のデータを用いて費用を見積もり、予算を設定しました。しかし、実施中に以下の課題に直面しました。期限を変更すれば規制上の罰金や罰則の可能性があるため変更は不可能という状況の中で、その期限を守るために追加の資金と人員が必要となりました。

  • さまざまな場所での実装コスト
  • 地域ごとの税制要件
  • スタッフの割り当てと配置換え
  • 法域ごとの規制順守

このような予算の混乱要因に備えて事前に計画を立て、全体のトランスフォーメーション予算の一部を予期しない問題に充てることで、スケジュールや締め切りから人員配置やキャッシュフローに至るまで、あらゆるリソース配分をより適切に管理することができます。

予算を下回る地域もあれば、超える地域もあると心に留めておくことが重要です。しかし、モダナイゼーションの過程を通じて変革の構成要素を継続的に監視し調整することで、全体の目標を効果的に予算内に収め、プロジェクトの成功を確実にできます。

Fast take

SAPの大規模なモダナイゼーションを実行するために必要なリソースをすべて持っている企業はありません。SAPから変革の計画と実施と支援を受けるのに加えて、システムインテグレーターなどの他のパートナーにプロセスの管理を手伝ってもらいましょう。
7.   将来の状態を思い描く

変革の取り組みは、稼働開始後も終わりません。KPIを測定、比較して実装後の問題に対処する場合でも、チャンスや可能性が現れた際にうまく利用する場合でも、継続的に進化することが求められます。
 

キンドリルの経験

キンドリルの新しいSAPシステムの導入によって、日常業務は大幅に簡素化されます。そのため、エンジニアは重要な作業に集中できるようになり、業務全体の生産性と効率が向上するでしょう。

今後、従業員の業績はビジネスへの貢献によって評価されます。たとえば、エンジニアは現在、データを分析し、ビジネス上の意思決定を促進し、収益を向上させ、コストを削減し、リスクを軽減するための洞察を生み出すことが期待されています。

企業として、私たちは必要に応じて業務やプロセスを改善し、SAPプラットフォームの進化する機能を活用し続けます。私たちは以下を目指しています。

  • セールスリードから契約締結までのプリセールスプロセスを全面的に見直す
  • 利用ビジネスモデルを変更し、SAP Billing and Revenue Innovation Managementソリューション(BRIM)を導入する
  • 2つのレガシーECCシステムを廃止する
  • RISE with SAPの利用を拡大する

私たちのCIOは「完璧を求めすぎて良いものを逃さないように」と言っています。つまり、私たちは卓越性を目指して努力しますが、適切なビジネスオーナーにソリューションを提供し、必要に応じて機能強化を行うことに重点を置いています。このアプローチによって、私たちは変化する状況に適応することができます。これは継続中の変革への取り組みで重要な側面です。

 

変革プロセスについて最後に一言

キンドリルのSAPのモダナイゼーションを、予定通りに、許容可能な予算内で実現できたのは、プログラムに割いた人材とプロセスのおかげです。この原則は、多くの変革プロジェクトに当てはまります。組織全体の変革を計画、管理、実行、測定するために、系統的で、度を越すほどのアプローチを取ることで、ビジネス成果を達成しモダナイゼーションの全体的な成功を増進することができます。

 

マイケル・ブラッドショー(英語)は、キンドリルのアプリケーション、データ、AIのグローバル・プラクティス・リーダーです。ジーノ・ルッジェーロ(英語)は、キンドリルのCIOオフィスのディレクター兼デリバリー・パートナーです。