Ranjith Lewis / François Habryn 著
テクノロジー・モダナイゼーション・プロジェクトの成功の要因は、「人」と「プロセス」といえます。 しかし、多くの企業は、組織全体で新しいテクノロジーを取り入れるよりも、デジタルツール導入に多大な時間やリソースを費やそうとします。
残念ながら、デジタルイノベーションに内在する人的要素を見落としてしまうと、たいていの変革が台無しになってしまう可能性があります。
マッキンゼー社の調査によると、変革プログラムの約70%が目標を達成できておらず、1 失敗する理由の大半が、従業員の抵抗、不十分な運用支援、および組織的な変化に伴う「ソフトウェアのコスト」を占めています。 つまり、それぞれのテクノロジー投資が、顧客満足度の向上、社内業務の強化、そして企業目標の達成を目指して設定されているにもかかわらず、コスト超過や低い採用率、ビジネス成果の低下につながってしまっているのです。
改善方法とは
大規模なデジタル変革や新たな働き方を計画する場合は、テクノロジー以外の領域から戦略的に検討する必要があります。 組織全体にわたり意識改革を行うこと、賛同を得ること、変革を促すことは、テクノロジーのみに焦点を置くよりもはるかに効果的です。2
経験が根拠につながる。数多くのお客様に全社的なAIOp導入支援を行っていく中で、以下の5つのヒントを見出すことができました。これらは、お客様のテクノロジー導入を正しい方向へと導きます。
1. 人に主眼を置いたアプローチ
データドリブンな意思決定や具体的な成果の達成のために、テクノロジーの活用は不可欠です。ですが、それ使う前に、まず従業員たちにテクノロジーを知ってもらい、信頼させる必要があります。
たとえば、AIOpsが生成するインサイトは、新たに発生する課題を高い確度で自動的に予測することができます。 情報が意味する内容を理解することで、サービスの中断やその他の問題が生じる前に異常を検知、分析でき、素早い問題解決が可能となります。
「平均検出時間」や「平均復旧時間」を測定する事後対応モデルから、「平均故障間隔」を測定する予測的戦略への移行は、業務に対する考え方の根本的なシフトにつながります。 つまり、AIOpsのような改革を展開する場合、導入後に人やプロセスへどのような影響が及ぶか、考慮する必要があるのです。
企業や従業員がテクノロジーの有効性について保証を求めている際は、まずモダナイゼーションから試してみてください。 たとえば、AIOpsならインシデント発生後は通常通り対応し、修復後も障害の根本的な原因を調査できます。 このユースケースによって得られたデータは、特定の異常値を見ることで、運用上のパフォーマンス変化の予測にも役立てられます。
良い成果に裏付けられたテクノロジーを正式に導入した後は、従業員からのフィードバックを真摯に受け止め、それを反映させていく必要があります
フィードバックをもらう際は、次のようなことを心がけましょう。
- ユーザーにコメントを求め、その質問に回答する
- 導入後に発生した課題を診断し対処する
- チームの取り組みを成功事例として評価する
プロセス全体に社員を関与させ、新しい働き方を継続的に改善していくことは、組織全体を通して信頼関係を構築し、テクノロジーの採用を促進する手助けとなり、やがて持続的な発展へとつながります。
2. 経営陣をプロジェクトに巻き込む
テクノロジーモダナイゼーションの計画段階において、CIO、CTO、その他の経営陣は、変革目標を組織全体のビジネス戦略に合わせる必要があります。 ビジョンの共通認識が統一されることで、ITリーダーは変革に向けてプロジェクトに最適なチームメンバーをアサインすることができます。
経営陣からの支援を確保し次第、変革に賛同する社内メンバーを募集します。 メンバーは、他の社員にモダナイゼーションの施策を共有し、変革がもたらすメリットを伝えていく役割を担う必要があります。
AIOpsにおいては、以下の3つの役割が特に重要になります。
- SRE(サイト信頼性エンジニア):ビジネスニーズを理解し、ソフトウェアやシステムを整備することで、テクノロジーの採用を推進します
- 運用リーダー:チームが導入戦略やテクノロジーの採用に尽力し続けるよう導きます
- AIOpsデータエンジニア:柔軟性と拡張性を備えたアーキテクチャーを構築します
導入開始後、経営陣は継続的に指示や支援を行う必要があります。 経営層の継続的なリーダーシップは、全社的な賛同とテクノロジーの定着化に不可欠です。
3. 変化が必要である理由を伝える
あらゆるレベルの社員が、新しいテクノロジーを導入する理由を正しく理解していなければ、変革に消極的になってしまいます。
以下のような工程を踏んで、社員の理解を得ていきましょう。
- 顧客体験の向上など、運用上の価値やビジネス機会を説明する
- 組織やIT戦略に、変革がどのように合致しているかを示す
- 改善されたテクノロジーを実装するタイミングが、なぜ今でなければならないのかを伝える
- 変革によって従業員体験や生産性を改善していくための方法を詳しく述べる
こうしたメッセージを発信し続ければ、社員の賛同と承認を全体に増やしていけます。
4. 段階的に変革していく
社員がモダナイゼーションを受け入れるか、あるいは抵抗するかは、導入対象のテクノロジーに有効性を感じられるかによって変わります。 段階的にテクノロジーを導入していけば、変革の価値を感じてもらえるでしょう。
ここで、ひとつAIOpsのユースケースを紹介します。 1つのデータソースを使って一定の成果を得られたら、次は複数のデータソースと大量のデータを用いて、他の環境へAIOps導入を開始します。
体系的なアプローチにより、組織はAIOpsに応じた意思決定と、自動的にインサイトを提供するテクノロジーに対して信頼を寄せるようになり、やがてより複雑な実装に移行できるようになるでしょう。AIOpsは決して社員の専門知識に取って代わるものではなく、むしろ社員を補助してくれるものだと理解してくれるはずです。
5. 評価と報奨
重要な変革を行っている期間は、社員に対する評価方法や報奨方法によって、社員のモチベーションを高めることができます。 プロジェクト、組織変革チーム、経営陣が密に連携することで、社内でのテクノロジー採用率が高まっていくと、多くのAIOps導入事例から立証されています。例えば、以下のようなことが実現します。
- ビジネスインパクトの実証:部門レベルでのビジネスインパクト(アプリケーションダウンタイムや顧客インシデントの低減など)を実証することで、全社レベルでのテクノロジー採用が促進されます
- インセンティブプログラムを整備:社員が、設定したマイルストーン(チケットやインシデントの削減、MTTR、サービスやアプリケーションの可用性など)を達成した際に表彰する制度を整備します
- 実装後のエンゲージメント評価:日々のワークロードの一環として、組織全体の導入後のエンゲージメント率や採用率を評価します
テクノロジーモダナイゼーションはどれ一つとして同じものはありません。 しかし、AIOpsの導入に成功すると、規模や範囲にかかわらず、共通の教訓が得られます。それは、「IT変革に関係なく、ユーザー中心型の思考は、より大きなビジネス成果をもたらす」ということです。
AIOpsに関する詳細な説明については「AIOpsへの移行を明確に」をご参照ください。
Ranjith Lewis は、キンドリル・デンマークのCTOであり、François Habrynはキンドリル・スイスのクラウドおよびアプリケーション、データ&AIのアソシエイトパートナーです。