「新たなサービスやアプリケーションの開発を担当するユーザーが求めるQCD (品質、コスト、納期)に応じた基盤の選択肢を提供できるようになったことは大きな前進です。」
- 日本航空株式会社 IT企画本部 IT運営企画部 技術戦略グループ
大嶋 将志 氏
東京・品川に本社を置く、JAL グループの日本航空株式会社(以下、JAL)は、国内、国際航空運送事業(旅客、貨物)を営み、連結子会社5社および関連会社1社にて航空運送事業を行っています。 2017‒2020 中期経営計画で「挑戦、そして成長へ」をテーマとし、JAL グループは、JAL Visionの実現に向けて取り組みを進めています。株式会社JALインフォテック(以下、JALインフォテック)は1978年の創立以来、JAL グループの ICT 中核会社として、安全・安心・快適な航空輸送サービスを支えています。 また、 JALグループ以外の顧客に対しても課題解決に貢献するICTのインテグレーターとして、JALグループで培った知見をもとにソリューションを提案しています。
JALおよびJALインフォテックは、「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」であり続けることを目指す一方、老朽化したレガシーシステムが増えて足かせとなり、ビジネスのデジタル・シフトへの対応に遅れが生じていました。
JALグループは、JALグループが目指す姿「JAL Vision」において、「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」であり続けることを掲げています。 しかし、老朽化したITインフラストラクチャーがデジタル変革を妨げていました。 ビジネスニーズの変化に応じて進化する柔軟な IT 環境を実現するために、JALとその中核となる IT戦略推進を担う JAL インフォテックは、キンドリル (旧称: IBM Infrastructure Services) と契約して、IBM Cloud® 上にハイブリッド・クラウド・インフラストラクチャーを構築しました。
JAL Visionの実現のためにグループの総力を挙げて取り組みを進める中で 「世界の JALに変わります」、「一歩先を行く価値を創ります」、「常に成長し続けます」の3つを掲げています。
JALグループのIT戦略推進を共に担うJALとJALインフォテックの両社は、JAL Visionの目標達成をITの側面から後押ししています。
JAL IT 企画本部 IT 運営企画部 技術戦略グループの大嶋 将志氏は、「現在 JALでは182の自社路線を毎日約1,000便運航し、年間4,000万人のお客様にご利用いただいています。 この航空機の安全運航・定時運航を支えるITを引き続き提供するとともに、 ビジネス環境の変化に迅速に対応可能な ITの整備、先進テクノロジー活用による新たな価値の創出に取り組んでいきます」と基本方針を示します。
もっとも、JAL Visionの策定を開始した2016年当時の JALの ITは、ビジネスのデジタルシフトへの対応に遅れが目立ち始めていました。
JALインフォテック システム基盤企画部 統合基盤グループ ハイブリッドクラウド基盤 アーキテクトの矢是 秀明氏は、「デジタル技術の進歩に対してITの役割が変化しているにもかかわらず、 老朽化したレガシーシステムや古いアーキテクチャーの基盤が足かせとなり、ヒトもモノも追いついていない状況でした」と明かします。
この課題を解決すべくJALとJALインフォテックは、「JALのビジネスに貢献する業務アプリケーションはどうあるべきか」、「信頼性の高い ITを継続的・タイムリーに実現するインフラはどうあるべきか」といった議論を重ね、 新たな方向性としてハイブリッドクラウドおよびマルチクラウドへシフトするという方針を打ち出しました。 こうしてJALとJAL インフォテックは、フランス語で「空」を意味する「CIEL(シエル)」と呼ぶハイブリッドクラウド基盤の構築に向かいました。
CIELは4つの基盤から構成されています。
JAL Visionのもとで今後 JALグループが展開していく、多様なサービスやアプリケーションを支えるインフラを、すべてCIELから提供することになります。 CIEL/J、CIEL/D、CIEL/managerの3つの基盤が、キンドリルとの協働によって構築されました。
「要件をまとめ、いくつかのベンダーに声をかけたところ、当時として最も進んだソリューションを提案してくれたのがキンドリルでした」と矢是氏は話します。
JALとJALインフォテックが当初から描いていたのは、オンプレミスとパブリッククラウドの双方に、同一の仮想化アーキテクチャーを展開するという構想です。 これにより仮想マシンを停止させることなく、2つの環境間で自在に移動可能でシームレスな連携を実現し、 品質とコスト、スピードのバランスを柔軟にコントロールしたいと考えました。
キンドリルは、Cross-vCenter NSX によるL2延伸でオンプレミスとIBM Cloudとの間を接続する VMware NSX Data Center ( 以下、VMware NSX) など、オンプレミスと同一のSDDC(Software-Defined Data Center)環境をIBM Cloud 上に実装しました。 SDDC アーキテクチャーは、仮想化ハイパーバイザーの VMware vSphere をベースとし、SDS(Software-Defined Storage)の VMware vSAN 、SDN(Software-Defined Network)の VMware NSX で構成されています。
もっとも、これだけで新たな全社インフラとなるCIELの要求レベルを満たすことはできません。 「これまで私たちが追求してきたシステムの信頼性や品質を新たな環境でも担保できるかどうか、個々の機能について公開値や理論値ではなく、テストで実証することを求めました。 タイトなスケジュールの中においても品質に対して妥協しなかったため、大きな負担をかけましたが、キンドリルのエンジニアの皆さんはしっかりやり遂げてくれました」 JALインフォテック システム 基盤企画部 統合基盤グループ グループ長 ネットワークアーキテクトの小熊 孝洋氏は話します。
また、CIEL/Jではネットワークの提供スピードを速めるために全システムのネットワークの仮想化を目指し、SDNであるCisco Application Centric Infrastructure(ACI)とVMware NSXを使ったネットワーク環境を実現しました。 異なるSDNを組み合わせてそれぞれの役割を明確化し、最大の効果を引き出すためには、双方のソリューションに関する高い技術力が要求されます。
「キンドリルは、VMware NSXとCisco ACIの両方の知識とスキルをもつエンジニアをアサインしてくれました。 彼らの対応は本当に素晴らしく、おかげで非常に困難な2つのSDN 間の整合性を確保しつつ、CIELが目指した仮想ネットワークを構築することができました。また、この実現によりネットワークの自動化を強力に推進できるようになりました。」と小熊氏は評価しています。
CIEL/manager は、ServiceNowの ITサービス管理および ITオペレーション管理を軸に、ヒトのワークフロー(作業に着手するまでのやり取り)を高度化し、モノのワークフロー(一連のシステムの設定変更作業)との連携により自動化レベルを高めています。
この基盤構築でも、キンドリルは大きな貢献をしました。 「キンドリルは、私たちの目指すものを理解し、統合的にJALにとって最適なソリューションを提案、導入をサポートしてくれました。 何でも相談できる心強いパートナーです」と矢是氏は述べています。
基盤構築の期間を振り返って、大嶋氏は 「構築にあたっては、広範囲かつ多くの新しいテクノロジーを組み合わせる必要がありましたが、従来の組織や役割を超えた体制を整えることで、乗り越えることができました。 統合 SIerとして、キンドリルも複雑なマルチベンダー体制の中、私たちと密に連携を取り、領域をまたいだ問題に責任を持って柔軟に最後まで対応してくれました。 今後の運用のフェーズでも同様の対応を期待しています」とキンドリルの対応を評価しています。
CIEL クラウドは 2018 年 12 月に運用を開始しました。 それ以来、1年間に2回のペースでサービスのバージョンアップを行っています。 従来の基盤構築では、どんなに長い期間をかけても、すべての要件を完全に実装してからリリースすることとしていました。 現在 CIEL クラウドは、半年ごとの短サイクルで、その時々に必要なクラウドサービスを段階的にリリースするという考え方を採用しています。
JALインフォテックのハイブリッドクラウド基盤プロジェクトマネージャーの小幡 雅彦氏は、「半年ごとに進化していくハイブリッドクラウド基盤というコンセプトを示したこと自体が、JALグループ全体のデジタル変革実現に向けた最大の成果ではないかと感じています」と述べています。
CIEL/manager における運用自動化のレベルも着実に向上しており、 「私たちエンジニアも、ユーザーとの打ち合わせや定型的なオペレーションに費やしていた時間を大幅に短縮し、本来やるべき設計や開発に専念できるようになりました」と小幡氏は、CIELの波及効果を示します。
小熊氏も 「業界全体としてIT 人材の不足が深刻化する中、私たちは基盤サービスのセルフサービス化や自動化をいち早く推進し、 企画や構想立案など上流工程の業務に、ITエンジニアをシフトする土台が整っています」と小幡氏の見解に賛同しています。
一方、「CIELの定量的な効果を測るのは時期尚早」と語る大嶋氏も、 「新たなサービスやアプリケーションの開発を担当するユーザーが求めるQCD(品質、コスト、納期)に応じた基盤の選択肢を提供できるようになったことは大きな前進です」 と手応えを示してします。
さらにJALグループは、システム基盤に加え、ビジネスや人材、ガバナンス、セキュリティなどあらゆる領域でのマルチクラウド活用を加速すべく、近い将来にその推進組織となるCloud CoE (Center of Excellence)を立ち上げる計画です。 これに伴いCIELは、ビジネス側のサービス開発やアプリケーション開発とより緊密に連携し、JAL Visionの実現を支えていくことになります。
2022年3月
「新たなサービスやアプリケーションの開発を担当するユーザーが求めるQCD (品質、コスト、納期)に応じた基盤の選択肢を提供できるようになったことは大きな前進です。」
- 日本航空株式会社 IT企画本部 IT運営企画部 技術戦略グループ
大嶋 将志 氏
「キンドリルは、VMware NSXとCisco ACIの両方の知識とスキルをもつエンジニアをアサインしてくれました。 彼らの対応は本当に素晴らしく、おかげで非常に困難な2つのSDN 間の整合性を確保しつつ、CIELが目指した仮想ネットワークを構築することができました。また、この実現によりネットワークの自動化を強力に推進できるようになりました。」
‐ 株式会社JAL インフォテック システム基盤企画部 統合基盤グループ グループ長 ネットワーク・アーキテクト
小熊 孝洋 氏
「エンジニアは、ユーザーとの打ち合わせや定型的なオペレーションに費やしていた時間を大幅に短縮し、本来やるべき設計や開発に専念できるようになりました」
- 株式会社JAL インフォテック ハイブリッド・クラウド基盤プロジェクト・ マネージャー
小幡 雅彦氏
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