日本発唯一の国際カードブランドであるジェーシービー(JCB)は、デジタル化が加速することでもたらされる人々の環境の変化を捉え、さらなる顧客体験強化を目指しています。
特に、消費者と対面で応対する窓口を持たない同社が重視しているのが、Webや電話でのユーザー体験です。同社 常務執行役員 コミュニケーション本部長 田邉 雅之氏は「Webやチャットなどのデジタルチャネル強化に大きく舵を切りつつ、電話とWebのシームレスな連携など、各チャネルの持つ強みを十分に踏まえたうえで、複合的なコンタクトチャネルモデルを構築していきたいと考えています」と語ります。
デジタルの取り組みが進みつつも、従来から存在する電話というチャネルは依然として大きな役割を担います。コミュニケーション本部 コミュニケーション推進部長 山本哲資氏も「電話でコンタクトしたいというニーズが一定数残り続ける中、電話応対のお客様満足度を追求していくためには、電話のつながりやすさや回答の正確性向上が重要な課題です」と強調します。
JCBは自社のコールセンター業務にある課題を抱えていました。コミュニケーション企画部 主査の瀬谷まゆみ氏はこう振り返ります。
「コールセンターでは自動音声応答(IVR)にてメニューを案内し、番号を選択してもらってお客様を適切な窓口におつなぎします。しかし、カード会社への問い合わせ用件は多岐にわたるため、すべての案内が終わるまでには約120秒かかっていました。お客様は適切な案内先を判断できず、最後の“その他”まで待ったり、案内を最初から聞き直したりするケースが多く見られました」
実際にカード会員からも「複雑」「時間がかかる」といった声が寄せられていたといいます。
「“その他”が選択された場合、オペレーターが用件をうかがって正しい担当者に転送しますが、これでは待ち時間が増えてさらなるストレスになるほか、オペレーターの対応が増えるため業務効率の観点でも改善が必要でした」(瀬谷氏)
しかし、IVRにて顧客が“その他”を選択肢した問い合わせ内容を分析してみると、実際にその多くは、IVRで案内する他のメニューで解決できる内容であることが判明しました。言い換えれば、IVR上で多くの顧客を正しいメニューに誘導できていない現状が浮き彫りになっていたのです。
電話でコンタクトしたいというニーズが一定数残り続ける中、お客様へ電話の繋がりやすさや回答の正確性により電話応対のお客様満足度を追求し、企業側は解決力と運営効率化を実現する質の高いコールセンターであることが重要です。
複数のAI製品を検討し、認識精度が期待値に達するAI製品を選定し、キンドリルとともにPoCを実施しました。用件の振り分けやFAQ対応については90%以上と想像以上の精度が出ることを確認できました
AIオペレーターの開発は、2020年秋に着手しました。通常のシステム開発では数年がかりになることも珍しくありませんが、AIによる応答以外の部分は既存のシステムを活用することで、わずか半年でリリースできる状態まで仕上げました。
しかし、導入には苦労もありました。AIで音声認識はできたとしても、それがどの用件に該当するのかは人間が定義しなければなりません。コミュニケーション推進部の本郷直美氏は、問い合わせの意図を汲むための工夫が必要だったと説明します。
「例えば銀行口座からの“引き落とし”を“振替”と言うなど、お客様によって使う言葉が異なるため、社内用語だけでは適切に用件を振り分けられません。多様な言葉を正しく認識できるように工夫しました。」
一連の導入作業にてJCBを支えたのがキンドリルでした。瀬谷氏も「導入を決めたAI製品に関しては、マニュアルを見ながら自分たちで設計・構築・運用していくのは困難だと思ったのですが、“AIオペレーターを一緒に育てていきましょう”と言ってくださったので、プロジェクトを進める判断ができました」と当時の印象を振り返ります。
キンドリルは、先述したAIオペレーターのシナリオ作成に関する検討や実装可否の判断、導入期間中にコロナ禍で発生した想定外の事態の対応などにおいてJCBを強力にサポートしてきました。
「導入を決めてからリリースまでの間では、コロナ禍によってお客様の行動パターンが変わり、利用の傾向も変わっていきました。また、マイナポイント事業への対応に伴う新しい問い合わせが想定される中、リリースを前にしてキンドリルの協力を得ながらAIのナレッジを増やして対応していきました」とコミュニケーション推進部 統括グループの穂積里栄氏は語ります。
キンドリルに対して瀬谷氏は、特に金融業の支援やAI技術の適用を通して培った経験、そしてコールセンター業務の深い理解がAIオペレーター導入に貢献したと評価します。
「今回のAIオペレーターは、複数のシステムをつなぎ合わせて構築しています。その中でキンドリルはコールセンターの仕組みやシステムに詳しく、弊社以上の知識をお持ちなので助かりました。弊社のシステム本部とも直接会話しながら導入を支援していただけました」(瀬谷氏)
AIオペレーターの導入に関するお客様からの問い合わせは想定以上に少なく、混乱なく受け入れていただけていると認識しています。人材不足が深刻なコールセンターの負荷軽減にも大きく貢献しています