コールセンターは待たされる
そんな体験はもう過去のものに

Team of people working at a call center with headsets on

「すぐに話したい」と思うお客様に
最良の体験をテクノロジーで届ける

コールセンターで窓口につながるまでの待ち時間を最大で55%削減

ジェーシービーが導入した「AIオペレーター」の効果とは

日本発唯一の国際カードブランドであるジェーシービー(JCB)は、デジタル化が加速することでもたらされる人々の環境の変化を捉え、さらなる顧客体験強化を目指しています。

特に、消費者と対面で応対する窓口を持たない同社が重視しているのが、Webや電話でのユーザー体験です。同社 常務執行役員 コミュニケーション本部長 田邉 雅之氏は「Webやチャットなどのデジタルチャネル強化に大きく舵を切りつつ、電話とWebのシームレスな連携など、各チャネルの持つ強みを十分に踏まえたうえで、複合的なコンタクトチャネルモデルを構築していきたいと考えています」と語ります。

デジタルの取り組みが進みつつも、従来から存在する電話というチャネルは依然として大きな役割を担います。コミュニケーション本部 コミュニケーション推進部長 山本哲資氏も「電話でコンタクトしたいというニーズが一定数残り続ける中、電話応対のお客様満足度を追求していくためには、電話のつながりやすさや回答の正確性向上が重要な課題です」と強調します。

 

 

 

JCBは自社のコールセンター業務にある課題を抱えていました。コミュニケーション企画部 主査の瀬谷まゆみ氏はこう振り返ります。

「コールセンターでは自動音声応答(IVR)にてメニューを案内し、番号を選択してもらってお客様を適切な窓口におつなぎします。しかし、カード会社への問い合わせ用件は多岐にわたるため、すべての案内が終わるまでには約120秒かかっていました。お客様は適切な案内先を判断できず、最後の“その他”まで待ったり、案内を最初から聞き直したりするケースが多く見られました」

実際にカード会員からも「複雑」「時間がかかる」といった声が寄せられていたといいます。

「“その他”が選択された場合、オペレーターが用件をうかがって正しい担当者に転送しますが、これでは待ち時間が増えてさらなるストレスになるほか、オペレーターの対応が増えるため業務効率の観点でも改善が必要でした」(瀬谷氏)

しかし、IVRにて顧客が“その他”を選択肢した問い合わせ内容を分析してみると、実際にその多くは、IVRで案内する他のメニューで解決できる内容であることが判明しました。言い換えれば、IVR上で多くの顧客を正しいメニューに誘導できていない現状が浮き彫りになっていたのです。

電話でコンタクトしたいというニーズが一定数残り続ける中、お客様へ電話の繋がりやすさや回答の正確性により電話応対のお客様満足度を追求し、企業側は解決力と運営効率化を実現する質の高いコールセンターであることが重要です。

株式会社ジェーシービー コミュニケーション本部 コミュニケーション推進部長 山本 哲資 氏
Four people sitting around woman with laptop

IVRにAIによる音声認識を
取り入れるアプローチ

もちろん、こうした課題に対してJCBは継続的にIVRの内容を見直して改善に努めてきました。しかし、従来のアプローチでは抜本的な改善は困難だと判断した同社は、新たな手法を試みることにしました。そこで目をつけたのがAI技術です。

 

同社では、業務改革に向けた取り組みを進める中で、以前からAI技術の情報収集を行ってきました。この役割を担ってきたのがイノベーション統括部です。いくつかのテーマを掲げ、同部門では最新技術を業務に応用できないかどうかを検証してきました。

 

取り組みの一環として、イノベーション統括本部はAIによる音声認識率を検証しました。その結果、電話業務の効率化に利用できるレベルだと判断。この知らせを受けたコミュニケーション企画部は、AIを用いてコールセンター業務の抜本的な改革を行う決断に至りました。具体的には、音声認識技術と自然言語処理技術を利用し、顧客が発した言葉から適切な応答を返したりオペレーターへとつないだりする「AIオペレーター」の実現です。

 

同社では、コミュニケーション企画部がプロジェクトに参画し実現可否を検証するPoC(概念実証)を、キンドリルのサポートを得ながら開始。想定以上の認識精度が出ることを確認した同社は、AIを利用したIVRの開発を正式に決定しました。

複数のAI製品を検討し、認識精度が期待値に達するAI製品を選定し、キンドリルとともにPoCを実施しました。用件の振り分けやFAQ対応については90%以上と想像以上の精度が出ることを確認できました

株式会社ジェーシービー コミュニケーション本部 コミュニケーション企画部 主査 瀬谷 まゆみ 氏
hand holidng stylus drawing on tablet

AIオペレーター導入に伴う
シナリオ作成を模索

AIオペレーターの開発は、2020年秋に着手しました。通常のシステム開発では数年がかりになることも珍しくありませんが、AIによる応答以外の部分は既存のシステムを活用することで、わずか半年でリリースできる状態まで仕上げました。

しかし、導入には苦労もありました。AIで音声認識はできたとしても、それがどの用件に該当するのかは人間が定義しなければなりません。コミュニケーション推進部の本郷直美氏は、問い合わせの意図を汲むための工夫が必要だったと説明します。

Man holding phone and credit card

「例えば銀行口座からの“引き落とし”を“振替”と言うなど、お客様によって使う言葉が異なるため、社内用語だけでは適切に用件を振り分けられません。多様な言葉を正しく認識できるように工夫しました。」

hand holding JCB card
Man holding phone to ear

一連の導入作業にてJCBを支えたのがキンドリルでした。瀬谷氏も「導入を決めたAI製品に関しては、マニュアルを見ながら自分たちで設計・構築・運用していくのは困難だと思ったのですが、“AIオペレーターを一緒に育てていきましょう”と言ってくださったので、プロジェクトを進める判断ができました」と当時の印象を振り返ります。

キンドリルは、先述したAIオペレーターのシナリオ作成に関する検討や実装可否の判断、導入期間中にコロナ禍で発生した想定外の事態の対応などにおいてJCBを強力にサポートしてきました。

「導入を決めてからリリースまでの間では、コロナ禍によってお客様の行動パターンが変わり、利用の傾向も変わっていきました。また、マイナポイント事業への対応に伴う新しい問い合わせが想定される中、リリースを前にしてキンドリルの協力を得ながらAIのナレッジを増やして対応していきました」とコミュニケーション推進部 統括グループの穂積里栄氏は語ります。

キンドリルに対して瀬谷氏は、特に金融業の支援やAI技術の適用を通して培った経験、そしてコールセンター業務の深い理解がAIオペレーター導入に貢献したと評価します。

「今回のAIオペレーターは、複数のシステムをつなぎ合わせて構築しています。その中でキンドリルはコールセンターの仕組みやシステムに詳しく、弊社以上の知識をお持ちなので助かりました。弊社のシステム本部とも直接会話しながら導入を支援していただけました」(瀬谷氏)

適切な窓口に接続するまでの所要時間が半分以下に

AIオペレーターの構築が完了し、別途生じた電話回線の問題からリリース待ちになったものの、2022年7月には一部地域でサービスを開始し、2023年2月には全国展開を果たしました。新たなシステムでは、コールセンターに電話をかけると、用件を伝えるように促す自動音声が流れます。顧客は言葉で用件を伝えたのち、その内容を音声認識して適切な転送先につなぐ仕組みとなっています。

 

これにより、適切な窓口に接続するまでの所要時間は53秒と半分に短縮されました。顧客にとっては、ガイドを聞いて番号から選択する従来の方式から即座に用件を話せるようになったことでユーザー体験が向上しました。

 

JCB側のメリットとしては、人手による用件転送とIVRで完結できる問い合わせが増えることにより、有人対応の約10%削減が見込まれ、業務の大幅な効率化が期待されています。

 

「AIオペレーターの導入について、お客様からの問い合わせは少なく、自然なアナウンスで違和感なく用件を伝えることができたという感想もあり、受け入れていただけていると認識しています。お客様にフリクションレスなサービスを提供しつつ、人材不足が深刻なコールセンターの負荷軽減に貢献しています」と語るのは、コミュニケーション推進部 部長の中島健氏です。

 

AIオペレーターの効果を高めるために、同社では現在も問い合わせの内容を分析して継続的な改善に取り組んでいます。「AIが振り分けられずにオペレーターが対応したケースを分析し、必要な用語を追加するなどのチューニングを行って精度を高めています」と穂積氏は語ります。

 

最後にコミュニケーション企画部長 石田光寿氏は、今回の一連の取り組みを踏まえてこう総括します。

 

「お客様が安全・安心にクレジットカードをご利用できるようにするには、さまざまな手続きや疑問の解消が『24時間365日』いつでも行えるコンタクトチャネルの提供が必要です。これからもAIの技術を活かしながら、より早く適切な情報を提供できるユーザー体験の優れたコンタクトチャネル構築を追求していきたいと思います」

Team of four people walking outside

AIオペレーターの導入に関するお客様からの問い合わせは想定以上に少なく、混乱なく受け入れていただけていると認識しています。人材不足が深刻なコールセンターの負荷軽減にも大きく貢献しています

株式会社ジェーシービー コミュニケーション本部 コミュニケーション推進部 部長 中島 健 氏

株式会社ジェーシービー

 

ジェーシービーは、日本におけるカード業界のパイオニアとして、1961年の創立以来、半世紀以上にわたり業界をリードし、現在では国内トップクラスの加盟店網を有しています。「日本発唯一の国際ペイメントブランド」としてJCBカードは、現在アジア地域を中心に1億5,400万会員以上が利用しています。

プロジェクトチーム

Team member - 1b

田邉 雅之氏

株式会社ジェーシービー 常務執行役員 コミュニケーション本部長
Team member - 2b

石田 光寿氏

株式会社ジェーシービー コミュニケーション企画部長
Team member - 3c

山本 哲資氏

株式会社ジェーシービー コミュニケーション推進部長
Team member - 4c

中島 健氏

株式会社ジェーシービー コミュニケーション推進部 部長 
Team member 5c

瀬谷 まゆみ氏

株式会社ジェーシービー コミュニケーション企画部 主査
Team member - 6b

桑原 剛

キンドリルジャパン株式会社 ストラテジックデリバリー本部 ネットワーク & エッジ
Team member - 7c

清水 直人

キンドリルジャパン株 式会社 ストラテジックデリバリー本部 アプリケーション データ & AI
Team member - 8b

津田 瑛汰

キンドリルジャパン株式会社 ストラテジックデリバリー本部 アプリケーション データ & AI

この事例は2023年4月のインタビューをもとに構成しました。

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